大阪地方裁判所 昭和35年(ヲ)1218号 決定 1960年10月12日
異議申立人 嶋本利彦
右代理人弁護士 塩見利夫
債権者 松本吉雄
債務者 山崎昌太郎
主文
本件異議申立を却下する。
理由
本件異議申立の要旨は「異議申立人は、本件競売申立物件についてその所有者である債務者との間に件外大福産業株式会社が昭和三四年八月二一日および同月二五日代物弁済予約を原因としてなした所有権移転請求権保全の仮登記を同会社から昭和三五年五月六日譲受けその旨登記をなした。ところが右仮登記に基き大阪簡易裁判所昭和三五年(イ)第七二五号和解調書によつて本登記をなさんとしたところ同年四月一日から改正せられた不動産登記法一〇五条により準用せられる第一四六条により債権者の承諾を得なければ本登記が受理せられない。かかる場合本件競売申立は前順位者である異議申立人に対抗できないと解すべきであるから競売申立は違法である」というにある。
しかし乍ら代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記は後日なさるる本登記の順位を保全する効力を有するに止まるのであるから異議申立人がその主張のように仮登記権利者となりその後不動産所有者である債務者との間において代物弁済予約に基く完結の意思表示により所有権を取得し所有権移転登記請求権を取得したとしても未だ本登記を経由しない限りはその取得した権利をもつて第三者である債権者に対抗することはできず、従つて仮登記が存するだけでは債権者が強制執行の申立をなしこれを続行するにつき何らの障害とはならないと解するを相当とする。
そして以上のことは不動産登記法が改正せられその第一〇五条第一四六条により利害関係ある第三者である本件債権者の承諾がなければ本登記を受けることができないことになつた現在においても少しも論を異にしない。
そうだとすると反対の見地に立つ本件異議申立は失当として排斥を免れない。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 三谷武司)